ストロンチウムハフネートの化学気相析出における有機金属原料の選定 :: Selection of metal-organic precursors for strontium hafnate (JCS-Japan, 2021)

藤江清花さん (M1) の研究成果が、Journal of the Ceramic Society of Japan 誌に受理されました。論文題目は、「Precursor selection for metal–organic chemical vapor deposition of SrHfO3 films with Sr(dpm)2 and Sr(hfa)2」です。

ペロブスカイト型ジルコニウム酸化物やハフニウム酸化物 (AZrO3AHfO3: A = Ca, Sr および Ba) は、熱伝導度が低く、融点が高いことから、熱遮蔽コーティング材料として期待されます。本研究では、優れた遮熱性と硬度を兼ね備えた材料としてSrHfO3に着目しました。しかし、熱遮蔽コーティング法として主流の大気圧プラズマスプレー (APS) 法や電子ビーム物理蒸着 (EB-PVD) 法を含め、これまでSrHfO3膜の気相合成に関する研究報告はありませんでした。

藤江さんは、MOCVD法によるSrHfO3の気相合成を提案し、これを実現するためにまずSr有機金属化合物原料の選定を行いました。我々の研究室では、これまでSrのMO原料としてStrontium bis(dipivaloylmethanate) (Sr(dpm)2) を用いてM型ヘキサフェライト (SrM) 磁性結晶等の合成を行ってきましたが、本研究ではより高い蒸気圧と反応性を有する Strontium bis(hexafluoroacetylacetonate) (Sr(hfa)2) に着目し、両原料を用いた比較実験を通じて、Sr(hfa)2原料を用いたSrHfO3のCVD合成に成功しました。

Sr(hfa)2 or Sr(dpm)2

S. Fujie, A. Ito, Precursor selection for metal–organic chemical vapor deposition of SrHfO3 films with Sr(dpm)2 and Sr(hfa)2, Journal of the Ceramic Society of Japan. https://doi.org/10.2109/jcersj2.20157

ストロンチウムフェライト磁性体の気相合成に成功 :: First CVD of M-type strontium hexaferrite (Mater. Lett., 2020)

加藤起基君 (2020年3月修了) の研究成果が、Materials Letters 誌に受理されました。論文題目は、「High-speed Epitaxial Growth of M-type Strontium Hexaferrite Films on Sapphire using Metal-Organic Chemical Vapor Deposition and Their Magnetic Property」です。本研究は、本学大学院工学研究院の綿貫竜太先生との共同研究です。

デジタルデータ流通量の増加に伴い、大容量データを長期保管するために磁気記録媒体の記録密度や信頼性の向上が求められています。加藤君は、有機金属化学気相析出 (MOCVD) 法によるM型六方晶フェライト膜の合成プロセスを提案し、その最適合成条件や磁気特性を報告しました。サファイア基板上への高速エピタキシャル成長に成功し、成膜速度 (14 μm/h) は従来の液相法や物理気相成長法の25~1400倍に達する一方、合成したM型六方晶フェライト膜の飽和磁化 (380 emu/cc) は単結晶 (404 emu/cc) に匹敵する値に達しました。

Graphical abstract for “High-speed epitaxial growth of high-performacne M-type strontium hexaferrite (SrM)”

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (課題番号:17H03426, 18K03536および20H02477)、横浜工業会・令和元年度学術研究推進援助事業の支援を受けて得られたものです。


K. Kato, R. Watanuki, A. Ito, High-speed Epitaxial Growth of M-type Strontium Hexaferrite Films on Sapphire using Metal-Organic Chemical Vapor Deposition and Their Magnetic Property, Materials Letters. https://doi.org/10.1016/j.matlet.2020.128046

ナノ柱状晶からなる透明多結晶厚膜の提案 :: Strontium titanate transparent thick film composed of close-packed nanocolumns (Vacuum, 2020)

Jianchao Chen氏、後藤 孝教授 (東北大学) との研究成果が、Vacuum 誌に受理されました。論文題目は、「High-speed epitaxial growth of SrTiO3 transparent thick films composed of close-packed nanocolumns using laser chemical vapor deposition」です。

単結晶バルク体や薄膜は、高い透光性を示しますが、平滑な表面からなることから比表面積は小さくなります。一方、多孔質体は、大きな比表面積を有しますが、光の散乱により一般的には不透明となります。もし高い透光性と比表面積を両立した材料を合成することができれば、新たな光触媒材料への応用が期待できます。

本研究では、レーザーCVD法を用いてMgAl2O4単結晶基板上にSrTiO3厚膜を高速エピタキシャル成長させました。SrTiO3厚膜は高い透光性を示し、SEM電顕観察においては緻密な構造が観察されていましたが、TEM電顕観察を通じて、この厚膜はナノサイズのSrTiO3柱状晶が密に集合した構造を持っていることを明らかにしました。

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (B) (17H03426) 他の支援を受けて得られたものです。


J. Chen, A. Ito, T. Goto, High-speed epitaxial growth of SrTiO3 transparent thick films composed of close-packed nanocolumns using laser chemical vapor deposition, Vacuum. https://doi.org/10.1016/j.vacuum.2020.109424