第15回セラフェス ★ 優秀発表賞

第15回セラミックフェスタin神奈川が、2020年12月12日(土)、オンライン開催されました。セラミックフェスタin神奈川は、神奈川県下でセラミックス研究を推進する大学研究室間の学術交流を目的とした研究発表会です。

伊藤研究室からは、三觜と藤江が参加して、研究成果をオンラインでポスター発表しました。研究発表を評価して頂き、藤江が優秀発表賞を受賞することができました。研究内容と受賞者の写真を添えた学府のリリースは、次の通りです:藤江

発表題目は、「化学気相析出法を用いたSrハフネート膜の合成と蛍光特性」です。Srハフネートは、密度が高く、実効原子番号が大きいことから、放射線を可視光に変換するシンチレーション結晶として期待されます。しかし、融点が高いことから、溶融凝固法や焼結法による透明蛍光体の合成が困難でした。藤江さんは、気相法による高速エピタキシャル成長を提案し、これを実現するためにまずSr有機金属化合物原料の選定を行いました。次いで、Srハフネートの透明厚膜蛍光体の高速気相成に成功し、その成長様式や蛍光特性を報告しました。藤江さんの優れた発表内容およびプレゼンテーション能力が高く評価され、今回の受賞となりました。

MRM Forum 2020 ★ 優秀若手発表賞

MRM Forum 2020 が、2020年12月7日(月)~9日(水)、オンライン開催されました。 伊藤研究室からは、松本、三觜、藤江が参加し、TS-9 Smart processing のセッションにて研究成果をオンラインポスター発表しました。

研究発表を評価して頂き、松本が優秀若手発表賞を受賞することができました (MRM Forum 2020公式発表)。研究内容と受賞者の写真を添えた学府のリリースは、こちらです。

発表題目は、「化学気相析出法を用いたHfO2透明厚膜の高速エピタキシャル成長とその蛍光特性評価」です。がんの早期発見や空港での手荷物検査の場では、X線を用いた画像診断法が用いられます。少量のX線照射で効率よく撮像を行うためには、優れたシンチレータ結晶が求められます。酸化ハフニウム (HfO2) は、高いX線阻止能を有することから、シンチレータ材料として有望です。一方、融点が高く温度変化に対して可逆相転移を示すことから、従来の溶融凝固法での結晶育成が困難でした。松本さんは、気相法を用いた酸化ハフニウムの透明厚膜蛍光体の高速合成に成功し、そのナノ構造や発光特性を報告しました。松本さんの優れた発表内容およびプレゼンテーション能力が高く評価され、今回の受賞となりました。

第16回次世代先端光科学研究会 (Invited)

2020年11月30日(月)に、第16回次世代先端光科学研究会が静岡大学浜松キャンパスにてハイブリッド開催されました。伊藤が参加し、「化学気相析出法を用いたHf系およびLu系蛍光体厚膜の気相合成」に関する研究成果発表を行いました。

日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第161回研究会

日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第161回研究会 「長繊維強化複合材料の創成と信頼性の向上 (その2)」 が、 2020年11月11日(水) にオンライン開催されました。伊藤が、耐環境セラミックスコーティングに関して話題提供発表を行いました。

※ 2020年3月12日に開催予定の第160回委員会ならびに研究会は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため延期となり、10月13日(火) および 11月11日(水) と2回に分けて開催されることになりました。

新学術「機能コア」 第4回遠隔連携会議

新学術領域研究「機能コアの材料科学」第4回遠隔連携会議が、 2020年10月30日(金) に開催されました。伊藤が、公募研究「高速化学気相析出法を駆使して導入した欠陥構造を高効率発光源とする透明蛍光体」に関して話題提供発表を行いました。

アルミナ–ハフニア秩序構造の気相合成に成功 :: Self-organization of alumina-hafnia nanocomposite (JCS-Japan, 2021)

松本昭源君 (D1) の研究成果が、Journal of the Ceramic Society of Japan 誌に受理されました。論文題目は、「Preparation of HfO2–Al2O3 nanocomposite films using chemical vapor deposition」です。

本研究成果は、Journal of the Ceramic Society of Japan 2021年1月号のCoverに選ばれました。研究成果に関する詳細は、追って公開します。

S. Matsumoto, A. Ito, Preparation of HfO2–Al2O3 nanocomposite films using chemical vapor deposition, Journal of the Ceramic Society of Japan. https://doi.org/10.2109/jcersj2.20156

ストロンチウムハフネートの化学気相析出における有機金属原料の選定 :: Selection of metal-organic precursors for strontium hafnate (JCS-Japan, 2021)

藤江清花さん (M1) の研究成果が、Journal of the Ceramic Society of Japan 誌に受理されました。論文題目は、「Precursor selection for metal–organic chemical vapor deposition of SrHfO3 films with Sr(dpm)2 and Sr(hfa)2」です。

ペロブスカイト型ジルコニウム酸化物やハフニウム酸化物 (AZrO3AHfO3: A = Ca, Sr および Ba) は、熱伝導度が低く、融点が高いことから、熱遮蔽コーティング材料として期待されます。本研究では、優れた遮熱性と硬度を兼ね備えた材料としてSrHfO3に着目しました。しかし、熱遮蔽コーティング法として主流の大気圧プラズマスプレー (APS) 法や電子ビーム物理蒸着 (EB-PVD) 法を含め、これまでSrHfO3膜の気相合成に関する研究報告はありませんでした。

藤江さんは、MOCVD法によるSrHfO3の気相合成を提案し、これを実現するためにまずSr有機金属化合物原料の選定を行いました。我々の研究室では、これまでSrのMO原料としてStrontium bis(dipivaloylmethanate) (Sr(dpm)2) を用いてM型ヘキサフェライト (SrM) 磁性結晶等の合成を行ってきましたが、本研究ではより高い蒸気圧と反応性を有する Strontium bis(hexafluoroacetylacetonate) (Sr(hfa)2) に着目し、両原料を用いた比較実験を通じて、Sr(hfa)2原料を用いたSrHfO3のCVD合成に成功しました。

Sr(hfa)2 or Sr(dpm)2

S. Fujie, A. Ito, Precursor selection for metal–organic chemical vapor deposition of SrHfO3 films with Sr(dpm)2 and Sr(hfa)2, Journal of the Ceramic Society of Japan. https://doi.org/10.2109/jcersj2.20157

イットリウムフェライト磁気光学結晶の高速気相成長と磁化増大を報告 :: Enhanced magnetization of yttrium iron garnet epitaxially grown via CVD route (Mater. Lett., 2020)

相田穂乃香さん (M2) の研究成果が、Materials Letters 誌に受理されました。論文題目は、「High-speed Epitaxial Growth of Y3Fe5O12 Thick Film with High Magnetization on (420) Y3Al5O12 Substrate Using Metal-organic Chemical Vapor Deposition」です。本研究は、本学大学院工学研究院の綿貫竜太先生との共同研究です。

イットリウムフェライト系化合物は、物質の磁化に伴い旋光性や電気分極を発現する機能性材料群です。中でもY3Fe5O12 (YIG) は、大きなファラデー効果を示し、YIG中を透過する光の偏光面を回転させることができることから、レーザー光源を戻り光から保護する光アイソレータとして、レーザー加工や光通信システムで実用されます。

YIG crystal as faraday rotator used in optical isolators.

YIG結晶は、1960年代にハライドCVD法により初めて合成されました。現在の工業生産においては、液相エピタキシー (LPE: liquid phase epitaxy) 法が主流となっています。一方、YIG薄膜に関する基礎研究では、物理気相蒸着法 (PVD: physical vapor deposition; スパッタリング法やパルスレーザー蒸着法が用いられており、一部の研究グループから (111) Gd3Ga5O12 (GGG) 単結晶基板上に合成したYIG薄膜の飽和磁化増大が報告されていますが、飽和磁化増大の機序は明らかになっていません。

本研究課題では、MOCVD法によるYIG結晶の高速エピタキシャル成長の確立を目的としました。実験に先立ち、YIG結晶を (100) や (111) といった低指数面で高速成長させた場合、ガーネット構造は結晶学的に異方性が小さいことから、マルチドメイン成長によって高品質の結晶を得ることは困難であると推察しました。そこで、高指数面を持つ (420) Y3Al5O15 (YAG) 単結晶基板を下地基板として選択し、YIGの合成実験を行いました。

Graphical abstract for “High-speed epitaxial growth of yttrium iron garnet (YIG) with enhanced magnetization”

(420) YIG厚膜は、(420) YAG単結晶基板上にcube-on-cubeの関係でエピタキシャル成長し、成膜速度は毎時33 μmに達しました。YIG厚膜は5 μm程度の膜厚がありますが、焦げ茶色の透明体であることから、単結晶様成長したことが示唆されます。成膜速度は、PVD法の180~1600倍、ハライドCVD法の20倍でした。さらにSQUID磁束計を用いた磁化測定により、(420) YIG厚膜は軟磁性的な磁化挙動を示し、室温における飽和磁化は202 emu/ccに達することがわかりました。この値は、LPE法やPVD法により合成される単結晶や薄膜の値 (~143 emu/cc) を越えるものです。このような飽和磁化増大効果は、これまでGGG基板上に成長させたYIG薄膜にのみ起こると考えられてきましたが、本研究によりYAG基板上に成長させたYIG厚膜においても観察されることが明らかになりました。XPS測定により、YIG結晶中にFe2+イオンの共存が示唆され、これが飽和磁化増大に寄与していることが推察されます。今後は、YIG厚膜の化学量論組成や格子ゆがみが磁気的特性に与える影響を調べていきます。

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (課題番号:17H03426, 18K03536, 20H05186および20H02477)、横浜工業会・令和元年度学術研究推進援助事業の支援を受けて得られたものです。


H. Aida, R. Watanuki, A. Ito, High-speed Epitaxial Growth of Y3Fe5O12 Thick Film with High Magnetization on (420) Y3Al5O12 Substrate Using Metal-organic Chemical Vapor Deposition, Materials Letters. https://doi.org/10.1016/j.matlet.2020.128228

ストロンチウムフェライト磁性体の気相合成に成功 :: First CVD of M-type strontium hexaferrite (Mater. Lett., 2020)

加藤起基君 (2020年3月修了) の研究成果が、Materials Letters 誌に受理されました。論文題目は、「High-speed Epitaxial Growth of M-type Strontium Hexaferrite Films on Sapphire using Metal-Organic Chemical Vapor Deposition and Their Magnetic Property」です。本研究は、本学大学院工学研究院の綿貫竜太先生との共同研究です。

デジタルデータ流通量の増加に伴い、大容量データを長期保管するために磁気記録媒体の記録密度や信頼性の向上が求められています。加藤君は、有機金属化学気相析出 (MOCVD) 法によるM型六方晶フェライト膜の合成プロセスを提案し、その最適合成条件や磁気特性を報告しました。サファイア基板上への高速エピタキシャル成長に成功し、成膜速度 (14 μm/h) は従来の液相法や物理気相成長法の25~1400倍に達する一方、合成したM型六方晶フェライト膜の飽和磁化 (380 emu/cc) は単結晶 (404 emu/cc) に匹敵する値に達しました。

Graphical abstract for “High-speed epitaxial growth of high-performacne M-type strontium hexaferrite (SrM)”

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (課題番号:17H03426, 18K03536および20H02477)、横浜工業会・令和元年度学術研究推進援助事業の支援を受けて得られたものです。


K. Kato, R. Watanuki, A. Ito, High-speed Epitaxial Growth of M-type Strontium Hexaferrite Films on Sapphire using Metal-Organic Chemical Vapor Deposition and Their Magnetic Property, Materials Letters. https://doi.org/10.1016/j.matlet.2020.128046

繊維強化複合材向け次世代界面制御コーティングの研究開発成果 :: Development of novel CVD-interphase coatings for SiC-CMC (CERAMICS JAPAN, 2020)

SIP-SM4I プロジェクトで取り組んできた研究成果の一部を、セラミックス誌に解説記事としてまとめました。題目は、「SiC繊維表面への界面制御コーティング技術と力学特性評価」であり、2020年6月号の特集「航空機産業向け先端セラミックス」に掲載されます。宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の後藤健先生との共著記事です。本記事には、原朋弘君 (2018年度修了) の研究成果が含まれます。

戦略的イノベーション創造プログラム (SIP: Strategic Innovation Program) 「革新的構造材料 (SM4I: Structural Materials for Innovation」では、「強く、軽く、熱に耐える材料を航空機へ」をモットーに、研究開発が推進されてきました。SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料 (SiC-CMC) は、現用の耐熱合金を代替し、タービンブレードの軽量化と耐熱性向上に貢献する材料です。民間機エンジンの高温部材の一部に採用がはじまっていますが、長期運用の安全性を担保し、部材の適用範囲を拡げるためには、SiC繊維とSiCマトリックスの界面に存在する界面コーテイングがカギとなりますが、現行のBNを代替しうる繊維コーティングは未だ開発されていません。

Graphical abstract for “Development of novel CVD-interphase coatings with Yb silicates and SiC for SiC-CMC”. Left and center figures have been adopted from N.P. Padture, Nat. Mater., 15, 804–809 (2016), and National Research Council, “Ceramic Fibers and Coatings: Advanced Materials for the Twenty-First Century” The National Academies Press, Washington, DC (1998), respectively.

伊藤研究室では、連携機関 (JAXA, JFCC, IHI) とともに、化学気相析出 (CVD) 法を用いたYbシリケート界面制御コーティングを開発しました。開発コーティングは、SiC-CMCに必要な損傷許容性を発現し、ベンチマークとして用いたBN繊維コーティングと同等の破壊制御機能を持つことや、最表面に施したβ-SiC 保護層がマトリックス形成時に接する溶融Siに対して良好な耐性を示すことを実験的に示しました。一連の研究開発成果は、大面積施工プロセスへとスケールアウトしており、熱CVI 炉で製造したSiC-CMC基板の高温曝露試験によって、界面制御コーティングの可能性が確認されつつあることから、今後のSiC-CMC部材への実用化展開が期待されます。

CVD法を用いて繊維束へ界面コーティングを施し、ミニコンポジット化して機械的特性を評価することで、コーティング開発プロセスを大幅に迅速化することが出来ます。伊藤研究室では引き続き、この高速開発サイクルを活用した繊維強化セラミックス複合材料の信頼性向上に向けたコーティング技術および材料探索を行っていきます。