日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第160回研究会 (延期)

日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第160回研究会 「長繊維強化複合材料の創成と信頼性の向上」 が、 2020年3月12日(木) に開催されます。伊藤が、耐環境セラミックスコーティングに関して話題提供発表を予定しています。

※ 2020年3月12日に開催予定の第160回委員会ならびに研究会は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため中止・延期となりました。

透明厚膜蛍光体の高速気相成長法の確立 :: CVD route to transparent thick films of Eu-doped hafnia and lutetia for phosphors (Opt. Mater. Express, 2020)

松本昭源君 (M2) の研究成果が、米国光学学会 Optical Materials Express 誌に受理されました。論文題目は「Chemical Vapor Deposition Route to Transparent Thick Films of Eu3+-doped HfO2 and Lu2O3 for Luminescent Phosphors」です。本研究は、Open Access 論文として一般公開されます。

伊藤研究室では、セラミックス光学材料の製造プロセスとして高速化学気相析出法を研究しており、 溶解凝固法や焼結法を代替する合成ルートとして提案しています。一般に、セラミックス光学材料には、溶解凝固法により育成した単結晶セラミックスが広く用いられます。しかし、超高融点セラミックスでは、溶融に大きなエネルギーが必要となり、超高温融液の保持も簡単ではありません。近年、セラミックス粉末を焼結することで、単結晶に匹敵する透明多結晶セラミックスを製造する技術が注目されています。しかし、優れた透光性を引き出すためには、原料粉末の調整や予備処理のノウハウが決め手となります。また、温度変化によって可逆的相転移を示すセラミックス材料を合成する際、 溶解凝固法や焼結法では、相転移に伴う体積変化による結晶の割れが問題となります。

超高融点セラミックスの中でも、酸化ハフニウム (HfO2) や酸化ルテチウム (Lu2O3) は、ワイドバンドギャップ (5.8および5.5 eV)、高密度 (10.1および9.5 Mg m−3)、高有効原子番号 (67.3および67.4) を示し、シンチレーターやレーザー向けのホスト光学材料として注目されます。しかしながら、これらの材料は超高融点 (それぞれ3031および2763 K) であり、特にHfO2は、温度によって単斜晶⇔正方晶⇔立方晶の間で可逆的に相転移するため、溶融凝固法や焼結法では光学結晶を合成することが困難でした。

Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) for sheet-type scintillators and gain media in thin disc laser”
Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) for sheet-type scintillators and gain media in thin disc laser”

本研究では、レーザー加熱CVD法を用いて単斜晶HfO2および立方晶Lu2O3の透明厚膜の高速化学気相析出に成功しました。HfやLu原料ガスとともにEu原料ガスを同時供給することで、Eu3+イオンをHfO2およびLu2O3中に均一にドープすることが可能であり、紫外線照射下にてEu3+イオンの5D07FJ遷移に起因する顕著な赤色蛍光を示す透明蛍光体厚膜が得られました。蛍光発光および蛍光励起スペクトルは、VRBE (Vacuum Referred Binding Energy) スキームおよびDiekeダイアグラムとともに考察しました。Eu3+イオンは、配位子場環境によって5D07FJ遷移の発光強度比が異なることが知られており、蛍光スペクトルからもHfO2単斜晶相の気相成長を確認できます。本研究は、レーザー加熱CVD法がセラミックス光学結晶の迅速製造プロセスとして有効な合成ルートであることを示すものです。

Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) of Europium-doped Monoclinic Hafnia and Cubic Lutetia”
Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) of Europium-doped Monoclinic Hafnia and Cubic Lutetia”

伊藤暁彦研究室では引き続き、ハフニウム系やルテチウム系酸化物を中心に、光学材料として期待される超高融点材料、難焼結材料、非平衡相材料の高速化学気相析出に関する研究を進める一方、共同研究を通じてその機械的特性や光学的特性を明らかにしていきます。

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (17H03426、17H01319および18H01887)、横浜工業会・令和元年度学術研究推進援助事業の支援を受けて得られたものです。


S. Matsumoto, A. Ito, Chemical Vapor Deposition Route to Transparent Thick Films of Europium-doped Hafnia and Lutetia for Luminescent Phosphor, Optical Materials Express. https://doi.org/10.1364/OME.386425

Link to ScienceDirect Topics: hafnium, lutetium, luminescence, luminescent-material

セラ協2020年年会 (中止)

第14回セラミックフェスタin神奈川が、2020年3月18日(水)〜20日(金)、明治大学駿河台キャンパスにて開催予定でしたが、 新型コロナウイルスの感染拡大予防のため中止となりました。

レーザーを援用した化学気相析出法によるセラミックスの自己配向成長 :: Self-oriented growth of engineering and functional ceramics using CVD (CERAMICS JAPAN, 2020)

本学への赴任後、学生と一緒に設計・製作した合成装置を用いて、2018年~2019年に得た研究成果の一部を、セラミックス誌に解説記事としてまとめました。題目は、「レーザーを援用した化学気相析出法によるセラミックスの自己配向成長」です。2020年2月号の特集「レーザーテクノロジーとセラミックス」に掲載されます。

「理想的な立方晶系からわずかに歪んだだけの単斜晶系や三斜晶系のセラミックス材料においても、各結晶面方位への選択的自己配向成長は実現できるのか?」「単結晶様成長を維持したまま、エピタキシャル成長はどこまで高速化できるのか?」といった研究課題に取り組んだ研究成果を紹介しています。

自己配向成長技術の事例として、超高融点酸化物構造材料 酸化ハフニウム、クロミック材料 酸化タングステン、地殻鉱物 マグネシウムシリケートの研究成果を紹介しています。また、 高速エピタキシャル成長技術を、融液からの結晶成長が難しい超高融点酸化物や不一致溶融化合物の結晶成長に適用した事例として、 単斜晶ハフニウム蛍光体やイットリウムフェライトガーネット磁気光学結晶の単結晶様成長に関する研究成果を紹介しています。

自己配向成長は、下地基板を選ばずに結晶配向成長を実現できることから、例えば切削工具やガスタービンブレードなど、過酷な環境で運用される基材を保護するコーティングとして幅広く適用できます。耐環境性コーティングの競合技術としては、溶射法や電子ビーム物理気相蒸着法がありますが、組織制御性や高融点材料対応の点で、 化学気相析出法 に分があります。伊藤研究室では、二の矢三の矢を仕込み中であり、 世界トップレベルの革新的セラミックスコーティングの創出を目指します。

高速エピタキシャル成長は、一般的なエピタキシャル成長の十~百倍程度の結晶成長速度を実現できます。気相法では、融点の半分以下の温度で単結晶成長が可能であり、これまで溶融法では合成が困難であった超高融点酸化物、可逆的相転移化合物、不一致溶融化合物や準安定相化合物をも含むセラミックス材料の単結晶成長プロセスとして利用できます。将来的には、マテリアルズインフォマティクスやサイバーフィジカルシステムと連携した機能性結晶のラピッドプロトタイピングおよび未踏材料探索の場として、本技術を発展させていくことを目指しています。

尚、SiC/SiC-CMC向け繊維コーティング技術に関する解説記事、セラミックス一般に関する書籍記事、セラミックスコーティングに関する書籍記事について、今春入稿予定で執筆中です。

希土類シリケート系耐環境コーティングのCVD合成に成功 :: First CVD of ytterbium silicates for environmental barrier coatings (Ceram. Int., 2020)

SIP-SM4I プロジェクトで取り組んできた研究成果の一部が、Ceramics International 誌に受理されました。原朋弘君 (2018年度修了) の研究成果が含まれます。論文題目は、「Self-oriented growth of β-Yb2Si2O7 and X1/X2-Yb2SiO5 coatings using laser chemical vapor deposition」です。

戦略的イノベーション創造プログラム (SIP: Strategic Innovation Program) 「革新的構造材料 (SM4I: Structural Materials for Innovation」では、「強く、軽く、熱に耐える材料を航空機へ」をモットーに、研究開発が推進されてきました。SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料 (SiC/SiC-CMC) は、現用の耐熱合金を代替し、タービンブレードの軽量化と耐熱性向上に貢献する材料です。民間機エンジンの高温部材の一部に採用がはじまっていますが、今後さらに適用範囲を拡げていくためには、部材を高温の酸素・水蒸気雰囲気から保護する耐環境コーティング (EBC: Environmental Barrier Coating) の開発が必須です。

A schematic of turbofan engine for airplanes
A schematic of a turbofan engine for airplanes. “3D Printable Jet Engine” modeled by CATIAV5FTW licensed under CC-BY-NC 4.0.

Ybシリケート (Yb2Si2O7およびYb2SiO5) は、高温水蒸気雰囲気下での耐減肉性に優れることから、EBC材料として期待されます。 化学気相析出 (CVD: Chemical Vapor Deposition) 法は、原料ガスの基材上での析出反応を利用したコーティング手法であり、複雑形状物を比較的高速に被覆できる特長があります。しかし、シリケート化合物はガラス相が生成しやすく、これまでCVD法を用いて結晶質のYbシリケートを得ることは困難でした。

本論文では、熱CVD法とレーザー加熱CVD法を用いてYbシリケート膜を合成し、それぞれのCVDプロセスにおいて、成膜温度がYbシリケート膜の生成相や結晶配向、微細組織に与える影響を明らかにしました。 Ybシリケートが自発的に結晶方位を揃えて気相成長する自己配向成長効果 (self-oriented growth) を見出し、各結晶相の自己配向成長効果を結晶学の観点から整理しました。さらに、熱処理試験による各被膜の微細構造の変化を調べました。

Graphical abstract for "Self-oriented growth of ytterbium silicates via chemical vapor deposition"
Graphical abstract for “Self-oriented growth of ytterbium silicates via chemical vapor deposition

伊藤暁彦研究室では引き続き、CVD法を用いた繊維強化セラミックス複合材料の信頼性向上に向けたコーティング技術および材料探索を行っていきます。

本研究成果は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議 戦略的イノベーション創造プログラム「革新的構造材料」『耐環境セラミックスコーティングの構造最適化及び信頼性向上 』 (管理法人: JST) の支援を受けて得られたものです。 本研究成果の一部は、日本学術振興会 科研費・基盤研究 (B) (17H03426) の支援を受けて得られたものです。

A. Ito, M. Sekiyama, T. Hara, T. Goto, Self-oriented growth of β-Yb2Si2O7 and X1/X2-Yb2SiO5 coatings using laser chemical vapor deposition, Ceramics International. http://doi.org/10.1016/j.ceramint.2019.12.217.

Link to ScienceDirect topics: silicate

第14回セラフェス ★ 最優秀発表賞・奨励賞

第14回セラミックフェスタin神奈川が、2019年12月14日(土)、神奈川工科大学にて開催されました。セラミックフェスタin神奈川は、神奈川県下でセラミックス研究を推進する大学研究室間の学術交流を目的とした研究発表会です。

伊藤研究室からは、相田、加藤、松本と伊藤が参加しました。研究発表を評価して頂き、松本が最優秀発表賞、相田が奨励賞を受賞することができました。松本は二年連続の最優秀賞の受賞となります。研究内容と受賞者の写真を添えた学府のリリースは、次の通りです:松本相田

松本さんの発表題目は、「ハフニア膜の高速配向成長およびマイクロカンチレバー法による機械的特性評価」です。ハフニアは、靭性と遮熱性に優れる高温構造材料であり、内燃機関向けの遮熱・耐環境コーティング材料として期待されますが、コーティング技術に加え、その機械的特性の評価手法の開発が急務です。松本さんは、化学気相析出法を用いてハフニアのコーティング技術を確立、集束イオンビーム加工技術を用いてハフニア膜内部に微小カンチレバーを作製し、ハフニア膜の機械的特性を評価しました。松本さんの優れた発表内容およびプレゼンテーション能力が高く評価され、今回の受賞となりました。
相田さん発表題目は、「Yフェライトのエピタキシャル成長における結晶相制御と磁気特性」です。イットリウム (Y) フェライト系化合物は、物質の磁化に伴い旋光性や電気分極を発現する機能性材料群です。相田さんは、Yフェライトのガーネット (YIG) やペロブスカイト (YIP) のエピタキシャル成長に関する研究を進める中で、下地基板の選択によりYフェライト膜の結晶構造を制御できることを見出しました。相田さんの優れた発表内容およびプレゼンテーション能力が評価され、今回の受賞となりました。