繊維強化複合材向け次世代界面制御コーティングの研究開発成果 :: Development of novel CVD-interphase coatings for SiC-CMC (CERAMICS JAPAN, 2020)

SIP-SM4I プロジェクトで取り組んできた研究成果の一部を、セラミックス誌に解説記事としてまとめました。題目は、「SiC繊維表面への界面制御コーティング技術と力学特性評価」であり、2020年6月号の特集「航空機産業向け先端セラミックス」に掲載されます。宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の後藤健先生との共著記事です。本記事には、原朋弘君 (2018年度修了) の研究成果が含まれます。

戦略的イノベーション創造プログラム (SIP: Strategic Innovation Program) 「革新的構造材料 (SM4I: Structural Materials for Innovation」では、「強く、軽く、熱に耐える材料を航空機へ」をモットーに、研究開発が推進されてきました。SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料 (SiC-CMC) は、現用の耐熱合金を代替し、タービンブレードの軽量化と耐熱性向上に貢献する材料です。民間機エンジンの高温部材の一部に採用がはじまっていますが、長期運用の安全性を担保し、部材の適用範囲を拡げるためには、SiC繊維とSiCマトリックスの界面に存在する界面コーテイングがカギとなりますが、現行のBNを代替しうる繊維コーティングは未だ開発されていません。

Graphical abstract for “Development of novel CVD-interphase coatings with Yb silicates and SiC for SiC-CMC”. Left and center figures have been adopted from N.P. Padture, Nat. Mater., 15, 804–809 (2016), and National Research Council, “Ceramic Fibers and Coatings: Advanced Materials for the Twenty-First Century” The National Academies Press, Washington, DC (1998), respectively.

伊藤研究室では、連携機関 (JAXA, JFCC, IHI) とともに、化学気相析出 (CVD) 法を用いたYbシリケート界面制御コーティングを開発しました。開発コーティングは、SiC-CMCに必要な損傷許容性を発現し、ベンチマークとして用いたBN繊維コーティングと同等の破壊制御機能を持つことや、最表面に施したβ-SiC 保護層がマトリックス形成時に接する溶融Siに対して良好な耐性を示すことを実験的に示しました。一連の研究開発成果は、大面積施工プロセスへとスケールアウトしており、熱CVI 炉で製造したSiC-CMC基板の高温曝露試験によって、界面制御コーティングの可能性が確認されつつあることから、今後のSiC-CMC部材への実用化展開が期待されます。

CVD法を用いて繊維束へ界面コーティングを施し、ミニコンポジット化して機械的特性を評価することで、コーティング開発プロセスを大幅に迅速化することが出来ます。伊藤研究室では引き続き、この高速開発サイクルを活用した繊維強化セラミックス複合材料の信頼性向上に向けたコーティング技術および材料探索を行っていきます。

ナノ柱状晶からなる透明多結晶厚膜の提案 :: Strontium titanate transparent thick film composed of close-packed nanocolumns (Vacuum, 2020)

Jianchao Chen氏、後藤 孝教授 (東北大学) との研究成果が、Vacuum 誌に受理されました。論文題目は、「High-speed epitaxial growth of SrTiO3 transparent thick films composed of close-packed nanocolumns using laser chemical vapor deposition」です。

単結晶バルク体や薄膜は、高い透光性を示しますが、平滑な表面からなることから比表面積は小さくなります。一方、多孔質体は、大きな比表面積を有しますが、光の散乱により一般的には不透明となります。もし高い透光性と比表面積を両立した材料を合成することができれば、新たな光触媒材料への応用が期待できます。

本研究では、レーザーCVD法を用いてMgAl2O4単結晶基板上にSrTiO3厚膜を高速エピタキシャル成長させました。SrTiO3厚膜は高い透光性を示し、SEM電顕観察においては緻密な構造が観察されていましたが、TEM電顕観察を通じて、この厚膜はナノサイズのSrTiO3柱状晶が密に集合した構造を持っていることを明らかにしました。

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (B) (17H03426) 他の支援を受けて得られたものです。


J. Chen, A. Ito, T. Goto, High-speed epitaxial growth of SrTiO3 transparent thick films composed of close-packed nanocolumns using laser chemical vapor deposition, Vacuum. https://doi.org/10.1016/j.vacuum.2020.109424

AY2020

2020年度がスタートしました。新4年生3名が加入しました!

伊藤は、2020年度 科研費 基盤研究(B) および 新学術領域研究 公募研究に、それぞれ研究代表者として新規採択されました。松本昭源君は、2020年度笹川科学研究助成および2020年度国大化学会ドクターコーススタートアップ支援に採択されました。

一方、COVID-19の感染拡大防止のため、学生の大学構内への入構禁止が通達されました。伊藤研究室では、コロナ明けに向けて、各自がリモートワークすることにしています。

ROUTE 2020SS

伊藤暁彦研究室では、2020年度春学期ROUTEプロジェクトに研究テーマを提供しています。気相法による人工宝石もしくは無機蛍光体結晶の育成に興味がある学生の参加をお待ちしております。

本テーマに関連した研究成果が、米国光学学会の速報誌に掲載されたばかりです。いま力を入れている研究トピックスの一つです。

参加方法等は、ROUTEウェブサイトをお読みください。

ROUTEとは:Research Opportunities for UndergraduaTEsの大文字をならべたもので、本学理工学部学生のみなさんが、理工学の最先端の研究に参加できるプロジェクトです。ROUTEを辞書で調べてみると、船の航路、登山のルート等と出ています。我々教員と一緒に、世界へとつながる大海原へ出航、あるいは研究の険しい坂道を登ってみませんか?(本学ROUTEウェブページより)

国大化学会 ★ DCスタートアップ支援

松本昭源君 (DC1) が、2020年度 国大化学会 ドクターコーススタートアップ支援に採択されました。2020年4月1日(水)、化学棟にて目録授与式がありました。

国大化学会 ドクターコース支援 目録授与式

AY2019 ceremonies

COVID-19により2019年度卒業式・修了式は中止となりましたが、学位授与式は規模縮小して挙行されました。伊藤研究室では、博士課程前期5名が修了 (1名進学・4名就職)、学部生3名が卒業 (3名進学) しました。式典後は、来年度配属生のうち2名を交えて歓送迎の場を持つことが出来ました。

@名教自然
@学生居室

日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第160回研究会 (延期)

日本学術振興会先進セラミックス第124委員会第160回研究会 「長繊維強化複合材料の創成と信頼性の向上」 が、 2020年3月12日(木) に開催されます。伊藤が、耐環境セラミックスコーティングに関して話題提供発表を予定しています。

※ 2020年3月12日に開催予定の第160回委員会ならびに研究会は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため中止・延期となりました。

透明厚膜蛍光体の高速気相成長法の確立 :: CVD route to transparent thick films of Eu-doped hafnia and lutetia for phosphors (Opt. Mater. Express, 2020)

松本昭源君 (M2) の研究成果が、米国光学学会 Optical Materials Express 誌に受理されました。論文題目は「Chemical Vapor Deposition Route to Transparent Thick Films of Eu3+-doped HfO2 and Lu2O3 for Luminescent Phosphors」です。本研究は、Open Access 論文として一般公開されます。

伊藤研究室では、セラミックス光学材料の製造プロセスとして高速化学気相析出法を研究しており、 溶解凝固法や焼結法を代替する合成ルートとして提案しています。一般に、セラミックス光学材料には、溶解凝固法により育成した単結晶セラミックスが広く用いられます。しかし、超高融点セラミックスでは、溶融に大きなエネルギーが必要となり、超高温融液の保持も簡単ではありません。近年、セラミックス粉末を焼結することで、単結晶に匹敵する透明多結晶セラミックスを製造する技術が注目されています。しかし、優れた透光性を引き出すためには、原料粉末の調整や予備処理のノウハウが決め手となります。また、温度変化によって可逆的相転移を示すセラミックス材料を合成する際、 溶解凝固法や焼結法では、相転移に伴う体積変化による結晶の割れが問題となります。

超高融点セラミックスの中でも、酸化ハフニウム (HfO2) や酸化ルテチウム (Lu2O3) は、ワイドバンドギャップ (5.8および5.5 eV)、高密度 (10.1および9.5 Mg m−3)、高有効原子番号 (67.3および67.4) を示し、シンチレーターやレーザー向けのホスト光学材料として注目されます。しかしながら、これらの材料は超高融点 (それぞれ3031および2763 K) であり、特にHfO2は、温度によって単斜晶⇔正方晶⇔立方晶の間で可逆的に相転移するため、溶融凝固法や焼結法では光学結晶を合成することが困難でした。

Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) for sheet-type scintillators and gain media in thin disc laser”
Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) for sheet-type scintillators and gain media in thin disc laser”

本研究では、レーザー加熱CVD法を用いて単斜晶HfO2および立方晶Lu2O3の透明厚膜の高速化学気相析出に成功しました。HfやLu原料ガスとともにEu原料ガスを同時供給することで、Eu3+イオンをHfO2およびLu2O3中に均一にドープすることが可能であり、紫外線照射下にてEu3+イオンの5D07FJ遷移に起因する顕著な赤色蛍光を示す透明蛍光体厚膜が得られました。蛍光発光および蛍光励起スペクトルは、VRBE (Vacuum Referred Binding Energy) スキームおよびDiekeダイアグラムとともに考察しました。Eu3+イオンは、配位子場環境によって5D07FJ遷移の発光強度比が異なることが知られており、蛍光スペクトルからもHfO2単斜晶相の気相成長を確認できます。本研究は、レーザー加熱CVD法がセラミックス光学結晶の迅速製造プロセスとして有効な合成ルートであることを示すものです。

Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) of Europium-doped Monoclinic Hafnia and Cubic Lutetia”
Graphical abstract for “CVD Route to Transparent Thick Films (CVD-TTF) of Europium-doped Monoclinic Hafnia and Cubic Lutetia”

伊藤暁彦研究室では引き続き、ハフニウム系やルテチウム系酸化物を中心に、光学材料として期待される超高融点材料、難焼結材料、非平衡相材料の高速化学気相析出に関する研究を進める一方、共同研究を通じてその機械的特性や光学的特性を明らかにしていきます。

尚、本研究成果の一部は、日本学術振興会科研費・基盤研究 (17H03426、17H01319および18H01887)、横浜工業会・令和元年度学術研究推進援助事業の支援を受けて得られたものです。


S. Matsumoto, A. Ito, Chemical Vapor Deposition Route to Transparent Thick Films of Europium-doped Hafnia and Lutetia for Luminescent Phosphor, Optical Materials Express. https://doi.org/10.1364/OME.386425

Link to ScienceDirect Topics: hafnium, lutetium, luminescence, luminescent-material

セラ協2020年年会 (中止)

第14回セラミックフェスタin神奈川が、2020年3月18日(水)〜20日(金)、明治大学駿河台キャンパスにて開催予定でしたが、 新型コロナウイルスの感染拡大予防のため中止となりました。